O-ringen’98に参加して
 私の母校、都立国分寺高校が、オリエンテーリングの盛んな学校だったこともあり、それがどういうスポーツなのかという予備知識はある方でしたが、まさか自分も始めることになろうとは夢にも思っていませんでした。人生何があるかわからないものです。ましてや数回の大会を経験しただけで、いきなりスウェーデンで走ることになろうとは…。帰国してからあちこちの大会で「O-ringenに行ったんですって!?」と沢山の人達に言われるにつけ、結構無謀だったのかもしれないと思うようになってきました。ともあれ、私のような超初心者の目から見たO-ringenのレポートも、あまりないでしょうから、旅行中に記した日記から抜粋したいと思います。

 7月19日(日)晴れ
 またやってしまった。目覚めたら6:45am。6時にアラームをかけておいたのに。下手に2人とも旅慣れていると緊張感が無くていけない。結局朝食用に買っておいたパンはNEX内で食べる。Finnairはムーミン一家の描かれた機体。乗客は日本人が半分位か。2回の機内食が美味しく(多分今迄のどの航空会社のものよりも)ありがたい。映画は何度観ようとしても眠ってしまい断念。光正は2本とも観ていた。今一だったらしいが。おかしいのはラジオの「フィンランド航空機長バンド」。なかなかのBig Bandだったが、アヤしい。
 ヘルシンキ空港で1時間半のトランジットのあと、再び飛行機でストックホルムへ。所要時間は丁度1時間。時差も1時間なので4:20に出て4:20につく。空港バスでストックの中央駅に着いたら、なんと我々の乗らんとしていた6:25Gavle(イェヴレ)駅行きは季節列車と判明。急遽6:30発のバスに変更。 Gavle 駅は日曜のため閑散としていたが、町並みは古風で美しい。何の標識も案内もなく、地図のみを頼りに重い食料とザックと共に歩きに歩いてようやく到着。O-ringen Cityはお祭りの雰囲気にあふれていた。でっかい こんな角の鹿のワラ人形もある。どうやらこの町のシンボルらしい。私たちの借りたキャラバン(キャンピングカー)は、ガス、水道こそ使えないが、テントの広々とした居間まで付いていて立派。設営まで全てしてくれるのだからありがたい。小学校の宿舎まで資料を貰いに行ったが、こちらも日本の「学校」のイメージからはかけ離れていて、結構住み易そう。日は10時を過ぎるとあっという間に落ちて暗くなってくる。 Cityのすぐ外にあるトルコ人の店でビールとハンバーガーを食べて人心地つき、寝る。

 7月20日(月)晴れ
 4時間半睡眠だが、割合すっきりしている。キャンプサイトのトイレは、手前に4つだけ小さな仕切りのあるトイレがあるが、奥の方はズラーッと一直線に並んで一斉に「考える人」となる。でも一応水洗だ。この連帯感に慣れてしまうと普段の個室はいかにも孤独だ。
 バスで40分ほど走り今日の会場Sandvikに着く。途中湖を渡ったのだが、橋ではなく、湖に突き出た半島状になっている。右も左も湖で美しい。バスから降りて歩いていくと、トラックの荷台がにわか舞台となって、おじさん達がFiddle風のヴァイオリンを奏でている。この辺の民謡だろうか。
 9:27スタートの私は、慌ただしく用意をして、すぐスタート地点に向かった。農道を延々と歩くが所々かわいらしい人家がある。正しくスタートできるか不安で(久々なので)何度もスタートリストを確認した。前半の1・2で時間がかかり、もうみつからないのでは?と探している時間が永遠のように感じたが、そこを脱してからは比較的スムーズ。あとで(私には)かなり難しいコースだった、帰って来られてエライとほめてもらえた。途中森の中でものすごい勢いで走り去る獣を見た。そういえばプログラムに“Wild Animal”を見たら直ちに知らせることとあった。シャワーが又すごくて、ビニールで囲った広大な野原で、一段高くなった「お立ち台」にずらりと皆並んで浴びている。風が吹いていて寒かったが、何とも言えぬ開放感だ。備え付けの「環境に配慮した」ヘア兼ボディーシャンプー以外は一切使用禁止というのもサスガだ。帰りのバスが一緒だった荻田さんにキャラバンに寄って頂きしばし歓談。こっちのビールはアルコール2.9%が主流で、スーッと軽い。

 7月21日(火)晴れ
   昨夜は、話しているうちに気付いたら二人ともガーガー寝てしまっていて、2時頃一旦目覚めた私は手探りでコンタクトを外したのだが、そんなわけで一体いつ外が暗くなったのかもわからない。でもお陰で10時間も寝てすこぶる元気。今日の会場Ockelboは、いちごが名産らしく、マークもいちごだが、沢山現物を売ってもいる。本日も又ハードな戦いを強いられ、やめようかと途中思ったほど。でも10人位の人に道を教えてあげた。ポストでパンチすると、それまで手持ち無沙汰で立っていた人達がドーッと寄ってきて地図をのぞき込むのだ。とりあえず人助けはした。
 夕方は町に出て散策。商店街も小ぢんまりとしてかわいらしい。郵便局で記念切手を買い、デパートを冷やかし、広場の市でいちごを買ってから、最も活気のあった広場内のレストランでディナーにした。ボリュームもあったが味つけもとてもよく満足した。「家」に戻ってからはミーティング。どうして失敗したかという話ばかりになるうち、何となく険悪な雰囲気になり、二人とも疲れていたこともあり、無口になってそのまま寝てしまった。

 7月22日(水)雨のち晴れ
 今日も8時間は寝たので、気分爽快な目覚め。今日のスタートは真木11:40光正12:26とさらに遅くなったので、ゆっくりストレッチ、朝食の暇アリ。本日の会場Storvikは、かわいらしい家々やお店の並ぶ小さな村落。日本人グループの日の丸を探すのに手間取り、ぐるぐる。ここでも更に時間が余り、出店を見て回る。私は買ったばかりのレガースと光正のお古のOLズボンを初めてつけた。その中身はこれ又渋谷で買ったばかりのいっちょ前のジョギングウェアだ。
 小雨降るやや肌寒い天候のお陰で汗はあまりかかずに済む。それに今朝やっと荷物の中から見つけたアゼプチンが効を奏し、初日からの花粉症も収まり、本日はすこぶる好調。
 スタート直後に全く違う方へ走り出してしまったことと、途中一箇所迷いに迷ったことを除けば、ほぼ昨日のレクチャーを生かせた。結果は90分。あまりの寒さに、シャワーは初めてCityに戻ってからジムの中にあるもので済ませた。どうも私は途中で膝をひねってしまったらしく、光正が買ってきてくれた氷嚢で患部を冷やした。従って遠出もなし。ランドリーを待つ間、買い物と夕食を済ませる。光正はシューズを買った。夕食もCity内のレストランで。モツァレラとトマトのサラダが秀逸。ものすごく大きなバジルが乗っていた。そういえば、ここは仮設のスーパーでさえ各種のハーブを置いている。よく食べる土地柄なのかも。
 リザルトを見たら、私より6分遅い人がいて、初めて再会を脱したことに、2人で喜ぶ。明日もLottaちゃんに勝つぞ。

 7月23日(木)晴れ
 今日はまたとてもいい天気。それでスタートまで随分あったものだから、シートの上でゴロゴロしているうちにすっかり背中が焼けてしまった気がする。レースはと言えば、きわめて順調だったのだが、初めて遅いスタート(1:12)だったので、マップにない径が無数にできていて大いに惑わされ、ラストの一つ前の水系のポストで40分位費やしてしまい、残念な結果に。そうやって径が出来てしまうことはよくあるのだと後で聞いた。今日シートを広げていた場所はゴール前だったので、随分沢山のゴールシーンを見た。小学1年くらいの女の子が泣きじゃくって「もうやめる!」とばかりにコースから外に出てしまおうとするのを、同じユニフォームを着た大人達が外から懸命に励まし、なだめすかして続けさせたりしている。
 夕方はおとといに引き続き町へ。Gavle歌劇場を見付け、「東フィルを辞めてここに移籍するってのはどうかなあ。案外こっちの方が給料良かったりして。」「いいねぇ。そしたらあちこちの大会に出ながら専業主夫するよ。」などと言いつつ記念写真。そうこうするうち遠くから「ドンドンひゃらら(?)」と賑やかな音。チビッ子から大人までの何十というサッカーチームの大行進だった。旗や校章を掲げ、どのチームも周りのチームに負けじと声を張り上げ自分達のチームの歌を歌っている。スウェーデンでもオリエンテーリングだけでなくやはりサッカー熱も高いのか。歌劇場から通りを挟んだ所にあるイタリアンに入ってみた。特大のボウルにギッシリ詰まったサラダには圧倒されたが、パスタもピザも美味しかった。東京にあっても結構流行るかもしれないと思ったほど。

 7月24日(金)雨
 今日の会場までは歩いて3、40分程。途中ズラーッとキャラバンの並んでいるところを何回も通る。こんな所にまであふれているのだ。会場はゴルフ場にあり、レースの最後にはゴルフコースを横切って走る所もあった。スタートまでも今迄で一番遠く、3300mを黙々と歩測の稽古をしつつ歩いていった。最終日の今日は、チェイシングスタートの後は、15秒おきのスタートで、緊張感があった。聾唖の人達もいた。Lottaは、予想に反してかわいらしい、でも気の弱そうな女の子だった。3番くらいまでは抜きつ抜かれつ、いろんな所で見かけたが、結局私は3で大きく外し、樹海を彷徨うかのようになかなかそこから抜け出られなかったので、2時間20分もかかってしまった。途中から降り出した雨はどんどんひどくなり、雷まで鳴り出したので、すぐにキャラバンに退散した。 シャワーからキャラバンに戻ってほどなくキャラバンの提供者Kling氏登場。ひょっこりキャラバンを訪ねてきた。友人を待たせているとかで、慌ただしかったが、レースのこと、物心ついた頃からオリエンテーリングをしていること、娘達のこと、会場のどこで働いていたかetc.いろいろと話した。お土産に日本から持参した扇子を渡し、お返しにスタッフ専用のTシャツ2枚を頂いた。思っていた通りのいい人、本当にお会いして直接お礼が言えて良かった!
 表彰式は6時からで、全てのクラスの1〜3位が勢揃いした様は壮観だった。国旗を高く掲げ、客席の歓声に迎えられてハデに入場する人もあれば、なぜか傘を持って地味な人も、車椅子のじーちゃんばーちゃんも。それぞれの前には、色々なスポンサーからの大小様々の賞品が並んでいた。
 夜、チャコさんや酒井さん達はディスコにいらっしゃるということだったので、私達も出掛けたが、結局会えなかった。ビールを一杯ずつ飲んだだけで踊らなかったが、マニアの間では根強い人気のあるスウェディッシュ・ポップスを直に聴け、スウェーデンの若者達のノリを体験できて面白かった。

 この後、もう一週間の猶予があったので、ストックホルム、コペンハーゲン、シュトゥットゥガルト、ミュンヘンを回り、フランクフルトから帰途につきました。
 初めて参加したO-ringen、私としては、記録や順位は二の次、5日間完走できたことだけでも夢のようです。毎日必ず一回は、「ああもうきっと一生この森から出られない。このままこの森のトロールになってしまうんだ。」とかなり切実に、半ベソ状態になっていました。反面、国内の大会にはない独特の温かさや、様々な国籍の人達の集まりなのにとても親密な雰囲気をいつも感じていました。初めて触れた北欧の大自然の圧倒的な印象と共にこれらは私にとって大切な旅の思い出となりました。